贄の血を受くる如くに杯を持つ


  ルーマニアのワインで気に入っている赤ワインがある。気品のフランスとも、土俗的なスペインとも、庶民的気安さのイタリアとも全く異なる味がする。グラスに入れても向こうが透けて見えないほど暗く、味はとても重厚かつ複雑で、ゴシック様式の古城の地下室で開かれる何か秘密の儀式ででも使うのがふさわしいような魔的な味である。このワインをグラスに注ぐときは何となく血を注いでいるような気がしないでもない。