2005-10-01から1ヶ月間の記事一覧

翡翠

蛭めいて指に吸い付く翡翠かな 翡翠の指輪を買った。翡翠と言っても、貴金属の台にはめ込んであるような宝石ではなく、石を直接くりぬいたもので、限りなく石に近い、安い物である。サイズ的にぴったりなのはいいのだが、薄緑色のマトリクスがなにやら生物の…

砕けたる心の破片を掃く箒 どんな人の心にも、可塑性のない部分があって、そこが壊れると元に戻らない。とはいえ、さっさと危険な破片は掃除して、次の一歩を踏み出したいものである。

影法師

我に似る我が影法師不憫なり ずっと私と共にある影法師。私がスマートなときはスマートに、不摂生をしてブサイクになればそのままにブサイクになってしまう。おまえにも苦労をかけるねぇ、なんて言ってみたり。

木犀やドラマに詳しくなりし父 父が完全にリタイアして悠々自適の生活になり、しばらく経った頃実家に帰ってみると、現役時代には全く興味を示していなかったTVドラマを欠かさず見ているのに驚いた。見られないときはちゃんとビデオ録画する熱心さである。…

雲ひとつない空別れを切り出さむ 今年の秋は、この地方としては奇跡的な天候の良さである。あまりに空が綺麗だと、かえって少々寒々しい気持ちになる。夕陽も多少雲がちな方が美しい。

葡萄酒

葡萄酒を傾け時空を遮断せり 札幌の某所に狭くて小さいワインバーがある。昔から狭くてごみごみした隠れ家的な空間が好きな私はとてもなごんでしまう。その小ささとは裏腹にやたらとワインに詳しいマスターとの他愛のない会話も心地よい。話したくない時はほ…

頂に風の女神の像が立つ 昨日札幌へ飲みに行った。大通公園に新しい像ができていた。この句は以前TVでルーブルの「サモトラケのニケ」を見て詠んだものであるが、この像もとてもイメージが合っている。

雪虫

雪虫のふわりふわりの一生かな 今日、雪虫が飛んだ。雪虫は羽のあるアブラムシの一種で、小さな綿のような感じの虫である。北海道では、この虫が飛ぶのを見るとじきに初雪が降るとされ、今の時期、ほんの一瞬見られる生き物である。こんなに雪にそっくりな生…

礫降る限界点を探す旅 いろいろな意味で、自己再生しなければならない時である。

野紺菊

わたくしの生きづらさなど野紺菊 最近公私ともにいろいろとあるが、一個人の些細な波乱など関知することなく、スケジュール通り野は野紺菊の季節。北海道の野紺菊は、株によって青からピンクに近い色まで、微妙に色合いが異なる。遺伝的なものなのか、土壌条…

満月 弐

降りしきる月の粒子を浴みゐたり 今夜の満月もくっきりだが、もろもろとしたレースのような雲が時折かかる。さしもの満月も携帯のカメラではこんなもの。ETの自転車が飛ぶシーンのような皓々たる月が撮ってみたい。

満月

見上げれば満月なりしこみ上げる 満月は明日であるが、今夜の月夜は雲一つなく、月もくっきり、きれいである。 数ある満月の名句の中では、次の句が最も好き。 満月や大人になってもついてくる 辻征夫

野男

野男の煙草の煙風に散る 戸外で働く男が、仕事の手を休めて一服し、その煙が風に吹き散らされる。それはウイスキーの広告のスチールのような一場面である。銘柄は、ラフロイグ。

贄の血を受くる如くに杯を持つ ルーマニアのワインで気に入っている赤ワインがある。気品のフランスとも、土俗的なスペインとも、庶民的気安さのイタリアとも全く異なる味がする。グラスに入れても向こうが透けて見えないほど暗く、味はとても重厚かつ複雑で…

錫杖

錫杖の一振り魑魅魍魎霧散せり 俳人中村苑子を知るきっかけとなったアニメ映画「イノセンス」のサウンドトラックを買った。錫杖の音が鮮烈に入り、印象的である。

後悔といふ魔にのしかかられてをり 最近ずっとこんな心境。このおんぶお化けをどう飼い慣らすか、である。

恋バナ

恋ばなといふ語しみじみ美しき 若者語は常にキッチュで意味不明だが、これはとても美しく文学的な響きである。こいばな、恋花、恋バナ。どんな花だろう。

薄野の彼岸の君よ漕ひで来よ 野草の植生は年と共に変遷するようで、去年はあんなに生えていたのに、と思う草花がめっきり少なくなっていることがある。今年はススキが少ないような気がするのだが。

夜半よりひと雨きたる uda udada こんな句ができると、俳句っていいなあと思ってしまう。 夜中頃、ぱらぱらと雨の音がして、あ、降ってきた、と思う。そういえば天気予報で降るって言ってたっけ。でも別にどうするわけでもなく、そのまま頬杖をついてテレビ…

唇の渇き募れば秋深し 急に寒くなった。唇の乾き具合で季節の変化を感じる。

父母

父母の夢を見し朝夢に哭く 最近、親不孝をしてしまった。離れて暮らしているので、つらい。お父さんごめんね、お母さんごめんね。

狐猿

深山に棲まふ貴人や狐猿 最近、ディズニーの映画「マダガスカル」のおかげで、TVにだいぶ取り上げられているマダガスカル島は、私にとっていつか行ってみたい憧れの島である。よく知られているようにマダガスカルはキツネザルの天国。特にツィンギという針山…

茜雲

届かない恋ほど高し茜雲 北海道は空が広いので、夕陽が美しい。毎日のように写真を撮っていても飽きない。職場の近くにお気に入りの夕陽スポットがいくつかできた。終業時刻が来るとカメラを持ってダッシュである。

眼球がころり逃げたる奇夢かな とても変な夢を見た。夢の中の私は眼球が義眼で、球の中に水が入れてあり、水を毎日取り換えなければならないのだが、それをするために眼球の片方をはずしたらそのままどこかへ転がっていってしまった。私は暗い空洞の眼窩のま…

鏡面の我が顔に見る陰と陽 美容院で、すっぽり照る照る坊主みたいなガウンに覆われると、顔だけの存在になる。私の顔は、左右が対称ではない。右の方が穏やかで整っており、左は不安定で不安げな顔。どちらも私である。