一周年その弐

一周年自選企画後編。こうしてみるとアンバランスに作っているなあ。思うままに作る、という態度でいる以上、仕方ないけれど。

2006 春
背中から翼が生える樹が生える
天体の目盛り進みて嵐来る
春嵐や蝙蝠の屍累々と
誰に書くあてもなけれど桜紙
もう曲がることのない角ありて春
戻らない人の心や散桜
初雲雀耕鋤始を祝ひけり
モオツアルトよりひとつ歳取り春の空
耳鳴りや牧神パーンの笛のをと
鬼の棲む野も春なりし花の色
夕暮れて二分咲きほどの恋心
八分まで咲かせて生き死に考へる
満桜宴も酣に候へど
文旦をさくりと剥けば許し時
かくこうがかくこうかくこう豆畑
柳絮舞ふバビロンまでは何マイル
早苗田は空をうつしてしづもれり
ぺんぺん草の余白に我の独り言

2006 夏
鳥雲や死後の世界なんて無い
遠雷や恋文綴る手が止まり
薬指の爪ほどの影しじみ
ふらんすはあまりに遠く日長かな
まえをゆく風のをとこの風下で
その髪に指を入れたし麦なびく
夏雲や水兵リーベぼくの船
探す夢繰りかへし見る夏の闇
幾光年行けども銀河また銀河
満月も溶けくづれたり熱帯夜
遠夜汽車あの日の蛍乗せてをり