数式

=の橋の向こうの天界や


  小川洋子の「博士の愛した数式」を読んだ。小川洋子ファンを自称しながら、最も話題となったこの作品を読んでおらず、我ながら真のファンにあらずと思っていたところであった。
  事故で脳を損傷した後遺症で80分しか記憶が保てない老数学者と、そこに雇われた家政婦とその十歳の息子という三人が織りなす、密やかで静謐な友情を綴った物語である。巻末に、この小説を書くにあたって取材を受けたという数学者藤原正彦によるあとがきがあり、そこには「小川さんはこの作品で、数学と文学を結婚させた」とある。私は、「数学を詩として表現した」とも言えると思う。無味乾燥と思っていた数学の用語がとても詩的に美しく描かれ、数学者が感じているであろう数学美の世界を門外漢にも垣間見させてくれるからである。
  素晴らしい作品だった。この小説は映画化もされているので、是非見てみようと思う。