蟷螂

蟷螂を肩に乗せたる少女の眸


  先々週、東北に行ったときのこと。函館から4回目の乗り換え列車はロングシートの普通電車で、日もとっぷり暮れた夕刻、通勤通学の乗客で一杯だった。その中に、セーラー服の白襟も清々しい中学生の女生徒が4,5人。何気なく見ていると、そのうちの一人のセーラー襟に、何か乗っているのに気が付いた。よく見ると、5センチほどあろうかという小さなカマキリであった。それも何やら小蠅のようなものをもぐもぐと食べているようである。そんなものを肩に乗せていることを、その子は一向に気付かぬ様子で、友達と笑い合っていた。
  しばらくして、そのことに気付いていたらしい近くのおじさんが、降り様に「肩に何か乗ってるよ」とその子に教えてあげた。少女は肩の珍客を見て、ちょっと驚いた様子だったが、取り乱して悲鳴だの振り払ったりだのということはせず、次の駅で肩にカマキリを乗せたまま降りていった。自然の中を走る路線のこと、駅で蟷螂を逃がしたのだろう。