牧神

牧神の迷宮にも月射す今宵


  映画「パンズ ラビリンス」を観てきた。訳せば「牧神の迷宮」である。古代の遺跡らしい、牧神の彫刻が中央に据えられた迷宮が登場する。
  予想よりずっとハードな映画だった。メルヘンチックな雰囲気のポスターや予告CMの映像から、冒険活劇的ファンタジーを期待すると、手ひどく裏切られることになる。あまり予備知識なしに観にいき、ファンタジーなのにR-12なのは、ファシズム政権下のスペインが舞台ということで、人が殺されるシーンがあったりするからかなあ、程度にしか思わなかった。とんでもなかった。これは大人のための映画である。
  ファンタジー異世界と対峙するものとして辛い現実を設定するのは、ファンタジーの常套手段だが、知る限りせいぜい厳しい学校の先生とか宿題とか意地悪な継母とかその程度のもので、こんなにも過酷な現実が設定されたのは見たことがない。あまりに過酷な故、「この物語はつらい現実から逃れるため少女が作り出した夢の世界だった」という解釈も含ませつつ、「あなたはどちらだと思うか」と問いかけられているような余韻が残る。悲劇的で美しいラストシーンには、製作者の宗教的世界観のようなものまで感じてしまう。