いちもぢに口とざす花我も君も

  
  ある日、古書店からカタログが送られてきて、その表紙につぎの一首が装飾として印刷されていた。一目見て塚本邦雄とわかったが、膨大な歌の中からどの歌集のものか特定できずにいた。昨日、バスの中で文庫歌集を見ていて、発見した。
  この一首が描くものは、優に映画一本分に相当する。麻薬のように取り憑かれる塚本邦雄の詩歌の中でも、特に忘れがたい一首である。


花とざす花苑をぬけて花ひらく獸園に不意の逢瀬を待つも  塚本邦雄「水葬物語」