花の下にて

遠き日の悔恨ふわり花の下


  北森鴻のミステリーに、「花の下にて春死なむ」という短編がある。ある自由律俳句結社の同人が亡くなるところから物語が始まる。その名を片岡草魚といい、枯れた雰囲気の老俳人であったが、亡くなって初めて、本籍が無く、名前も本名でないことが判明し、主人公の女性がある理由からそれらを調べ始め、草魚の漂白の人生があきらかになってゆく・・・というストーリー。ミステリーなのでこれ以上は記さないが、エンディングは実に切なく、一見無関係なもう一つの事件との絡み合い、舞台設定の妙とも相まって、短編ながら読み応えのある一編である。
  片岡草魚の句がなかなかいいのも嬉しいところだ。作者注によれば種田山頭火と木村緑平の句を参考にしたとある。この短編には続編もあり、そちらも俳句がモチーフのミステリーである。


子猫を供の花盗人ソロリソロリ   片岡草魚