紐文学

alzira2008-02-11

ひとつずつ句を吊し売る屋台かな


  ブラジルの「リテラトゥーラ・デ・コルデル」の日本語唯一の解説書が届いた。「コルデル」とは、ブラジルの民衆文学のひとつであり、古くは紐で束ねて屋台で売られていたことから、紐(コルデル)文学と呼称されている。
  十年ほど前、ブラジル発信の音楽が世界的に注目された時期があった。それまで一部のファンのものであったボサノヴァやMPB(ブラジルの歌謡曲)とは違う、レニーニ、シコ・サイエンスなどの新世代ミュージシャンの音楽が世界中で大ヒットし、日本でもライブが開催された。私も夢中になり、CDを買いあさり、ライブの最前列でノリまくっていた。彼らの音楽の素晴らしさは、アフリカ、中東、東欧といった国々からの移民たちのリズムと旋律が融合し、それを世界最先端のテクノに乗せてしまうという斬新さにあるが(語ると長くなるので詳細省略)、同時に瞠目させられたのがその歌詞の文学的高度さである。レニーニは別名「吟遊詩人」と呼ばれるほどその詩は高度であるし、日本でも知名度があるパウリーニョ・モスカなどの歌詞もそのまま普通に詩集にできるレベルのものだ。ブラジルラップ界のガブリエル・オ・ペンサドールの歌詞も、また彼らの前身MPBの歌詞もしかりである。彼らの歌詞に比べると、日本のポップスの歌詞の多くは稚拙で薄っぺらく感じてしまう。
  そのような詩の源流の一つが、コルデルに代表されるブラジル民衆詩の伝統である、という記事を、ラテン音楽の雑誌で読んだことがあり、それ以来関心を持っていた。コルデルはマスコミや映画・テレビなどが発達する以前情報と娯楽の役割を担っていた文化であり、その題材は社会的、通俗的、時事的なものとのことである。江戸時代の瓦版がリズムに乗ったと思えばよいかも知れない。
  本書はまだざっと見ただけで未読だが、ブラジルの詩の文化を理解する上で大変興味深いと思われる。