言の葉

遅れても旅立たむ渡り鳥の空


  宮沢和史のファンである。私より二年早い生まれという同じ年代であることに加え、世界中のミュージシャンとコラボし、世界中でライブを行う、他のポップ・ミュージシャンにはないそのスタイルにいつも感銘させられる。そして、宮沢氏は詩の人である。
  宮沢氏のエッセイ「言の葉摘み」を読んだ。この本は、諸般の事情によりやや重苦しい気分だった今日この頃に、幾ばくのパワーと希望を与えてくれた。上の句は、書中で、宮沢氏が引いたおみくじのひとこと「遅れても出発せよ」より。
  エッセイによれば、今や世界的名曲になった「島唄」は沖縄戦で亡くなった人々の無念を忘れないように、との思いから生まれたとのことである。しかし、歌詞を読めば、沖縄戦そのものを連想させる言葉はなく、旋律も絶望ではなく希望へ向かうような力強さがある。つまり、誰もがすんなり受け取れる歌でありながら、戦争の悲惨さを忘れず平和な未来を願うというメッセージは知らず知らずのうちに胸に染みこんでくる。そしてそのことは、エッセイ中で、坂本九の「上を向いて歩こう」について書かれた文章中に、図らずも記されている。「・・・歌詞というものは、作り手が自分の言いたいことを言いきりすぎることで、かえって人の心に届かないことがある・・・本当にいい歌には、聴き手の誰もが入っていける間口と奥行きがある。富める者も貧しい者も、例え罪人であろうとも全ての人間を抱きとめる包容力がある。」
  こんな素晴らしい詩人が、日本にもいるのだ。同年代の人間として、とても誇らしく思う。