アトム

誘蛾灯おぼろアトム叙事詩の蠅人記


  手塚治虫のコミック「鉄腕アトム」には、今の歳になって読んでも深い物語がたくさんある。ロボットを未来社会の被差別者と位置づけ、アトムを人間とロボットの架け橋となる存在として描いている。また、ロボットは支配者である人間に差別される存在でありながら、その本質として人間に悪意を持つことができない。それ故、その設定をベースにした個別の物語も、単なる「正義の味方が悪者をやっつける」話に留まらず、人間の陥る弱みやコンプレックスをあぶり出しながら、希望が余韻として残るのである。
  「人工太陽球」「透明巨人」「十字架島」といった秀作には、決して芯からの悪者ではないのに、ちょっとした弱さから周りが見えなくなり、素直になることができずにひねくれたり、犯罪に走ったりするキャラクターが登場する。この歳になると、そんなコンプレックスを持つキャラクター達に妙に感情移入してしまうのである。