素数

我らこの素数の詩をうたふもの


  幼少から親しみ身に染みこんでいる食物の味をソウルフードと言うならば、安野光雅の絵は、小学校教科書の挿絵から親しんでいる私にとっていわばソウルアートとでも呼ぶべきものである。安野氏は若い頃小学校教諭をしており、教え子の一人が数学者の藤原正彦だそうで、この恩師と教え子対談を収めた新書「世にも美しい日本語」を読んだ。藤原氏小川洋子が「博士の愛した数式」を書くにあたりインスパイヤの素となった人物でもあり、数学研究の傍ら日本の名文学を読む読書ゼミを開催し、俳句もよくし、日本文学をこよなく愛する方のようである。
  その藤原正彦氏が、書中で、五七五のリズムについて、五も七も素数、五七五を足した十七も、五七五七七を足した三十一も素数、日本人は素数が何故か好きなのだ、という考察をしているのは面白かった。素数というのは気が付かなかったなぁ・・・。高校時代自らの通信簿にアヒルを浮かべてしまった私には俄に垣間見えぬのだが、数学者が素数に魅せられること並々ならぬものがあるようだ。面白い。
  それにしても、美しい日本語といえば如何に「正しい日本語」に回帰すべきかという論調が多い中、むしろ歌を楽しむように古語や漢文、文語を楽しみ、大切にすべきとする、国語が専門でないお二人の日本語語りなかなか面白かった。一点玉に瑕をいうならば、最近の書物にありがちなこととして厚手の紙が使ってあり、行間も間延びするくらいとってあり、本の割に内容が物足りず、どうも新書一冊読んだ気がしない。折角のわくわくする組み合わせの対談なのに、えっもう終わりなのという感じなのだ。少しの内容で読み応え感を狙う商法だろうが、「美しい日本語」などと冠する書物くらい、せこい商売はやめてもらいたいものである。