夏の邸宅

alzira2008-09-29

右脳を夏の館に忘れ来し


  先日の夏休みに、東京都庭園美術館にて開かれ、絶賛を博している船越桂展「夏の邸宅」を見てきた。あいにくの雨だったが、おかげで最終日にもかかわらず空いており、翠滴る庭園を楽しむことができた。
  元々個人の邸宅として造られた建物の部屋々に、彫刻達がそこの住人のように違和感なく配置され、見事に調和していた。船越桂の彫刻を間近に見るのは初めてだが、このような贅沢な展示はそうそうないに違いない。
  この展覧会のテーマはチケットにも刷り込まれているスフィンクス。緊張感漂うこのモチーフが繰り返されるなかで、ひとつ印象に残った部屋があった。それは、ありふれた白熱球が点る図書室に佇む初老の紳士の像。銀縁の眼鏡をしたその紳士は、仄暗い書庫を覗いた私の顔を見て、「お帰りなさい」と言ったかのような貌をしていた。夏の館の住人、主人がいない間管理を任されている執事。「夏の邸宅」に最もふさわしいのは、この紳士だったような気がする。