ポロシリ

alzira2008-09-30

この駅も反魂草に覆はれし


  注文していた時田則雄の最新歌集「ポロシリ」が届いた。時田則雄氏は十勝にて畑作農家を営む歌人。本歌集は第九歌集であるが、これまでにも増して淡々と、時に灯台守日記のように、実務が織りなす詩情に溢れるものとなっている。


十トンの乾燥豚糞撒き終へて月のあかりにつつまれてゐる
固き地面割りて出で来し大豆の芽淡きみどりの露宿しをり
にんげんのにほひを今日も噴きながら翠の畝を行つたり来たり
反魂草の咲きゐるあたり螽斯身を削りつつ鳴いてゐるなり
麦の穂をふるはせ虹をゑがきゐる殺菌剤に励まされをり
露に濡れし野面さまよふ紋黄蝶空の深さに怯えてゐるか   時田則雄「ポロシリ」


  ハンゴンソウとは、このような字を書くのであったか。北海道の道路際や路線際にはオオハンゴンソウという帰化種が大群落を作っている。未練断ち切れぬ魂が反るという幽玄の風情よりは、ややたくましい感じがする野草である。