海と蝶
韃靼は西1万km蝶渡る
先日紹介した「ポロシリ」の一首。
韃靼蕎麦食ひつつ思ふてふてふひらひら海渡る 訳 時田則雄「ポロシリ」
辻征夫にも、《 海峡 》という名の句がある。
《 蝶来タレリ! 》 韃靼ノ兵ドヨメキヌ 辻征夫「俳諧辻詩集」
海・海峡と蝶というのは一つの定型である。谷村新司にも「海を渡る蝶」という歌があるし、「蝶が海峡を渡る」という合唱曲もある。ひたすら広い海の向こうへ果敢に飛んでゆく一頭の蝶に、人はつい肩入れし感情移入してしまうものらしい。
韃靼は、海峡→韃靼海峡(間宮海峡)→韃靼(タタール)という連想だろうか。タタールとは、北アジアのモンゴル高原から東ヨーロッパまでのとてつもなく広い地域を指し、アジアだかヨーロッパだかも判然としないような茫漠とした草原の観がある。儚い蝶がサハリンとロシアの間の海峡を渡り、海より広い草原へ消えて行く様を想像すれば幻惑を誘われるのも無理はない。