Dr.パスナサスの鏡


どこまでも影のびてゆく神無月
天高く円弧を描いている嫉妬
顔と腹の穴より透けて見える街の灯
銀河の端から顔の穴に吸われ
心は小鳥肋骨という籠の中
脳外科のひとふでがきの迷路にて
頭蓋底の似我蜂にぶくあおびかる
海馬になにか纏わり付いている深夜
不協和音の残渣散り敷く彗星軌道   


  「アバター」はすごいなあ。今日は本当は「アバター」を見に行ったのだ。いつも心配なくらいすいていて、いい席が取れなかったことがない映画館なのだが、はじめて満席で入れなかった。それで、時間がちょうどよく、どうせ観るつもりだった「Dr.パルナサスの鏡」を観た。
  ヒース・レジャーの遺作ということで話題の、テリー・ギリアム監督作品。間違いなく、ギリアム監督の最高傑作と断言できる。夢をそのまま映像にしたような、とよく評されるが、本当にこんな夢を私もしばしば見る。映像が幻想的なだけではない。理屈や理由が不明な細かいことがたくさんあり、説明のないまま登場しては放置される。まさしく、夢のナンセンスさそのものである。ヒース演じる男が飲み込んでいた笛は何だったのか?彼の額の記号は誰が描いてどういう意味?彼は結局何者で、パルナサスと悪魔どちら側の人間だったのか?そして、パルナサスは悪魔と何度賭けをして何勝何敗で、最後に勝ったのはどっち?
  これは是非スクリーンで観るべきだ。シルク・ド・ソレイユの「コルテオ」に通じる幻想世界に迷い込める。俳優陣も豪華絢爛、特にモデル出身のリリー・コールの、やや現実離れした人形のような顔立ちがギリアムの映像に見事にフィットしている。そうそう、それから、最後に小さなサプライズがあるので、エンドロールの途中で席を立ってはいけない。こちらの3Dもなかなかだ。
  吟遊投稿作品をもう一度。似たような夢を見るせいか、私の俳句とギリアム世界には共通点を感じる。