追悼 桜森

散りやまぬをんなの胸の桜森


in the cherry forest
on her heart
rain of blossoms is never stop


 河野裕子さんが亡くなった。突然のことで言葉が見つからない。64歳、あまりに若すぎる。悲しすぎる。
  二十歳の頃、やまだ紫の漫画のタイトルになった次の歌から河野さんを知り、歌集「ひるがほ」「森のやうに獣のやうに」「桜森」に落雷のように衝撃を受け、短歌を作り始めたのが私の今日の句作の原点である。


しんきらりと鬼は見たりし菜の花の間に蒼きにんげんの耳   河野裕子「ひるがほ」 
                

  私にとって詩歌魂のお母さんのような存在であり、ずっとファンだった。昔、河野さんが選歌をされていた毎日歌壇に投稿し、載ったことがある。次の歌が載った21年前のその日の新聞の切り抜きは、今でも大切にとってあり私の宝物である。この経験が自信になり、その後短歌・俳句を作り続ける原動力になったと確信している。一度お会いできたらと願っていて叶わなかったが、拙歌ながら一つでも目に留めていただいたのは私の誇りである。


夕暮れを逢う魔が時と思いつつビルとビルの間の木霊の声聞く   芙美子