牧水

風に立ち深く息せば月までも


deeply breathed
inhaling but also the moon
in the wind


ぼく、牧水!  歌人に学ぶ「まろび」の美学 (角川oneテーマ21)
  新書の新刊「ぼく、牧水!」を読んだ。歌人の伊藤一彦さんと俳優の堺雅人さんが若山牧水の魅力を論じた対談集である。とてもよかった。お二人は恩師と教え子という旧知の間柄でもあり、愛してやまない同郷(宮崎県)の牧水を話題にするのが嬉しくてたまらないという雰囲気が、頁を突きぬけて伝わってくるような、臨場感のあるいい対談である。
  同時代の北原白秋石川啄木と比べると、牧水の歌には、洗練されきらない生な感じがするという。身体性があって自然と身体との一体感があり、格好悪くても生の自分であることを大事にし、声に出して読むと調べが美しい。それが「まろび」の美学であるというのがこの書の主題である。そこには、言葉をセリフとして口に出し、身体をもって表現する人である俳優の堺さんならではの牧水観があり、非常に感銘を受けた。例えば、次の一文。


堺  「それが奇をてらっているものだったら、人の心は揺さぶれないと思うんです。身体がついてきているかどうか。頭だけでつくっていないか。」


  やられた。最近句作が煮つまっている感がある私にガツン!である。頭だけでつくっていないか、自分?何か頭に風が吹きぬけたような気がした。


  後半、牧水と酒について語られる。酒豪で酒がらみの逸話がいくつもある牧水の、有名な「酒はしづかに飲むべかりけり」をはじめ酒の歌がいくつも出てきて、それを飲みながらお二人が文面でわいわいやるのだからたまらない。私のような酒好きにとって、牧水は飲酒行為をブンガクにしてくれたと人というわけで、ある種の恩を感じているところがあって、誰かと牧水の酒の歌を肴に飲みながら、「これこれ、わかるよねえ、いいよねえ」なんて、一度やってみたいことの一つなのだが、この対談で疑似体験できたというわけである。


  元気が湧いてくる本。