秋分

ふたり居る東の我と西の我


  英語訳に苦戦。とりあえず日本語のみ。
  週末は、本をむさぼった。湊 かなえの「夜行観覧車」「往復書簡」、ヘニング・マンケルの「五番目の女」上下。五番目の女 上 (創元推理文庫)五番目の女 下 (創元推理文庫)
  一気読みである。暑くなってからはなかった勢いだった。秋になり日が短くなるとやたらと本を読みたくなるのは何故だろう。食欲の秋は自然の理にかなった生理的現象だが、読書の秋は、さて?
  ヘニング・マンケルは流石のプロット、主人公クルト・ヴァランダーに久しぶりに逢えてよかった。 今回、ヴァランダーが父親とのローマ旅行から帰ったところからはじまる。わだかまりがありつつも愛する老父との楽しい旅行から一転して、無残な殺人事件の捜査という現実と、個人的にも悲しい出来事に見舞われる。突き落とされるような悲しみに囚われそうになりながらも事件を追うヴァランダーを、読者の私も励ましながら、一緒になって犯人を追うのである。途中でやめられるわけがない。
  加速感と疾走感、はまるミステリにはこの二つが揃っている。本作はこの点では最高だ。楽しい旅行から帰ったばかりのヴァランダーを待っていたのは、特に盗まれたものがない花屋の侵入事件と、石油の配達人による、行ってみたら注文先の老人が家に居なかったという届出、そして同僚の親戚の職場での幽霊話。どれも、警察として対応するかどうかも微妙なほどの事件である。石の転がり始めの気をもたせるようなこのゆっくりさ。石はすぐに転がり始め、終盤ではヴァランダーと一緒に息もつかずに走り続けることになる。翌日に仕事がある日には読みはじめないほうがよい。