宙に放たれる鳥のかたちの息のおと 


a sound of breath
that a bird's shape
is setting loose to the air


  DVDで「愛を読むひと」を観た。

愛を読むひと (完全無修正版) 〔初回限定:美麗スリーブケース付〕 [DVD]  素晴らしかった。すぐに原作本「朗読者」も買って読んだ。法律家として、人間の「罪」と「罰」が白と黒に簡単に塗り分けられないことを知り尽くした原作者ならではの物語といえる。朗読者 (新潮文庫)
  15歳の少年が、ある夏、母親ほども年の離れた女性と恋に堕ちる。夏の終わりとともに突然姿を消したその女性を再び目にしたとき、彼女はナチの戦犯を裁く法廷の被告席にいた。主人公である彼は、彼女の刑を軽くできる可能性がある、ある”事実”を知っていたが、それを法廷の場で明らかにすることをせず、彼女は終身刑になってしまう。気にしつつもなにもしないまま年月がたったあるとき、彼は彼女にある贈り物をする・・・。ここまでは映画のPRのストーリー、以下観ていない方は読まないで頂きたい。是非観ていただいて、本も読むことをお勧めする。
  主人公の罪悪感と、それに裏打ちされた行為が彼女にもたらした幸福という、相反する事象を縦軸に、関係する人々が更なる複雑さの横軸を織りなしていく。特に、終盤で、ホロコーストの生き残りのユダヤ人女性が、刑務所で死んだ”彼女”が遺したお金を渡されるシーンは素晴らしい。その女性は、お金を受け取ることは拒否するが、お金が入っていた美しい紅茶の空き缶は受け取るのである。その女性は幼少時、宝物をしまっておいた紅茶の缶を盗まれた経験を持っていて、その、大切なものを紅茶の缶にしまっておくということへの小さな共感から、”彼女”がホロコースト時代に結果として行ってしまった行為は許すことができないが、運命のいたずらでそうなってしまっただけの本質は自分と同じ普通の女性だという事実は受け入れた、という実に複雑な感情がシンプルに伝わってくる秀逸なシーンである。
  蛇足だが、主演のケイト・ウィンスレットアカデミー賞は当然として、少年時代の主人公を演じたデヴィット・クロスがノミネートもなかったっていうのは解せないなあ。主演賞はおうおうにして助演あっての賞(ミスティック・リバーのショーン・ペンとか、アマデウスのエイブラハムとか)だが、本作もクロスの好助演あっての主演女優賞という気がするのだが。