怪異

口といふ穴明け渡す夏の夜
千本の腕もて苔の庭を這ふ
振り向くな桜橋渡りきるまで
血しぶきと桃花片と七重八重
我の上を蜘蛛が跨いでゆきにけり
烏百羽風切羽の音止まず


  今日は過去の作品から、ちょっと怖い句を集めてみた。歌人佐藤弓生著「うたう百物語」読了したからである。怪談専門誌の連載を刊行したものとあって、ごく短い怪談が付いた、ちょっと怖い短歌のアンソロジー。著名な歌人の歌もあり、この人の作品にこんな怖い歌、あったんだな〜という発見もおもしろい。たとえばこんな。


深々と人間笑ふ声すなり谷一面の白百合の花    北原白秋
あまのはら冷ゆらむときにおのづから柘榴は割れてそのくれなゐよ   斎藤茂吉
扉の奥にうつくしき妻ひとつづつ蔵(しま)はれて医師公舎の昼闌け   栗木京子


うたう百物語 Strange Short Songs (幽ブックス)